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「エンガン」
西 祥郎

「エンガン第一回」

犀鳥。
この種はアフリカ、インド、そして東南アジアの熱帯地方に広く分布している。スマトラからインドシナ半島一帯にかけて、低地から標高一千二百メートルの間に棲息する大犀鳥はこの種の中で最大で、体長1.5メートルに達するものもある。羽毛はしっとり落ち着いた緑黒色に、尾は幅広の縞模様で飾られ、黄銅色の大きなくちばしの中ほどから頭頂部にかけて鶏のとさかのように大きなつのがあり、その名前の由来を物語っている。翼を広げて高空を飛翔する雄大な姿は悠々とした力強い羽ばたきとともに、見る者に王者の風格と威厳を感じさせてくれる。
主食はいちじくやパーム類などの果実だが、虫・ネズミ・トカゲ・小鳥・こうもり、あるいは小型の哺乳類をも食す。三羽から五羽の群れで高木に棲むのを好み、交尾期にはつがいを組む。雌は木の洞で産卵すると、穴ごもりして卵の孵化にあたる。雌は洞の内側から自分の排泄物を用い、雄は外側から泥や粘土を運んできて、わずかな隙間を残して洞をふさいでしまう。産卵は一度に多くても二個までで、四週間後に卵は孵化するが、母鳥と幼鳥は4〜5ヶ月の間、その閉ざされた洞の中で暮らし、雄がその間、餌を運んできて母子を養う。幼鳥が十分に成長すると、母鳥は洞から出るが、子供が飛べるようになるまで親が餌を与え続ける。インドネシアでこの鳥は、エンガンあるいはランコンと呼ばれている。

西スマトラ州シンガラン山。曙光が夜の闇を少しずつ溶かし始めると、山の偉容がおぼろげに浮かび上がってくる。山の斜面を埋め尽くす広大なジャングルが墨絵から緑色に変わり、中空にひとつだけ残っていた暁の明星が黄金の光を透明なブルーの中に没するころ、抜けるように青い天蓋に「エンガン、エンガン」という声がこだまする。

一羽の巨鳥が、青みが濃さを増す天空を背に、大きな翼を広げて緑のじゅうたんの上を滑空すると、ジャングルの一角からそれに唱和する「エンガン、エンガン」という声が響く。その声に導かれて寄ってきた巨鳥めがけて、唱和する鳴き声をたてたもう一羽の巨鳥が、ジャングルを後にして大空へと舞い上がった。二羽は空中で寄り添い、翼を並べると、朝の陽光にきらめくマニンジャウ湖を左に見ながら、北を指して飛び去って行った。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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