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「エンガン」
西 祥郎

第13回

エンガン一行が館に戻ってきたのは、ちょうどそのころでした。旅装を解く間ももどかしく、エンガンが奥庭の巨木へ向かおうとしていると、おしの老女が早く早くとエンガンをせきたてます。その様子に不審を抱いたエンガンが奥庭に駆けつけると、木の洞を塞いでいた扉は隙間が開いており、ロンカンはもうその中にいないことがすぐにわかりました。愛する妻に見捨てられたことに強い怒りと深い恨みを抱いたエンガンは、殿中の異変を調べて馬係の少年が馬を二頭盗んだことを知り、すぐにロンカンの後を追うことにしました。しかし后に逃げられた領主という自分の立場のゆえに、エンガンはこの事態を表沙汰にしたくありません。そんなことが明らかになれば、領主としての権威は地に落ち、その地を支配することも難しくなるだろうことをエンガンは確信しているのです。おかげでロンカンの母后が心配した、エンガンが軍勢を率いてロンカンを奪い返しに来るという事態に到ることは避けられました。ただ、それはどうあれ、大きな悲劇がかれらの前途に待ち受けていたのは事実だったのです。

エンガンは領内で一番早い馬を引き出すと、ただ一騎でメラピ山を目指しました。ロンカンの母后が山の別荘に来ていることをかれは知っているのです。ロンカンはそちらへ向かったにちがいない。パガルユンを目指したら道中なにが起こるかも知れないし、そのために夜だけ移動するとなると、何日もかけなければならないのだから。エンガンの予想は的中しました。メラピへ向かう途中の集落で領民に尋ねると、たしかに前夜、二騎が連れ立ってメラピ山に向かって疾駆して行ったことが判明したのです。
夕日の中で真っ赤に燃えていたメラピ山麓に入った頃には、もうとっぷりと夜の闇が天地を覆いました。ロンカンの母后の別荘に近付くと、エンガンは乗ってきた馬を木につなぎ、徒歩で別荘に向かいます。降るような星空の下で、天を衝いてそびえる巨木の合間を、エンガンはひっそりと進みます。昇ってきた月が下界を照らしはじめると、完全武装した衛兵が別荘の周辺を固めているのが遠望されました。力ずくでロンカンを連れ帰るのは、いまのエンガンには無理なのです。しかし自分を裏切った者たちをこのまま赦しておくことはできません。おまえたちは裁きを受けなければならないのだ。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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