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「エンガン」
西 祥郎

「エンガン第三回」

エンガン王子は嫉妬深い性格でした。自分も優れた人間になるよう努力するのですが、それでも自分を凌駕する人間に対して向けられる妬み。他人を信頼しきれない猜疑心。ただしそれらは、支配者が自分の地位を維持するために必要とされている条件だったのかもしれません。領民はこの陽気なエンガン王子を愛していましたが、支配者に対する怖れも持っていました。父王が没すると、王子が領主の地位を引き継ぎました。領内の暮らしはその支配権移譲からほとんど影響されることもなく、それまでの暮らしが飽くことなく坦々と続けられていくのです。

ところが、王子がそれまで持っていた狩や闘鶏への情熱は、まるで夢から覚めたかのように、王子の心から失せていきました。決して他の者に負けることを恐れたからではありません。王子の心を淋しさが襲ったからです。王子の人生に連れ添ってくれる伴侶を、王子は必要としていたのです。

自分がもっとも気に入る伴侶を自分の目で見つけよう。そのためにスマトラ中を旅するのだ。そう決心した王子は、廷臣たちに出立の準備を命じました。期待に膨らむ王子の心はかれをうきうきさせ、今よりもっと若かったときの陽気さをかれに取り戻させました。旅の用意が整うと、出立です。大勢の従者を引き連れた華やかな行列が領内をあとにすると、隣国の都へと向かいます。一行はあちこちの領主の御殿や王宮に立ち寄って大歓迎を受け、その地の支配者と親睦を深めました。支配者の親族縁者の中にいる姫君たちと親しく話を交わすのですが、どうもこれぞという姫君には出会いません。こうして各地を転々とし、数週間後にはミナンカバウの王宮に到りました。

静謐で緑滴るパガルユンの地に入った一行は、丘の上に聳え立つ宮殿をかなたに臨みながら、知らせを聞いて出迎えにきた廷臣たちの歓迎を受け、そのまま宮殿へと向かいます。エンガン王子はたいへん大きな期待に胸弾ませていました。この宮殿には、各地で噂に聞いたロンカン王女が住んでいるのです。ミナンの王に宮殿の中でその親族たちを紹介されたとき、王子の目はロンカン王女に釘付けになりました。これまで回ってきた各地でまだ見たこともない、美しく愛らしい王女がその人だったのです。自分が求めていた伴侶はここにいたのだ。王子は心の内に何度もその言葉をつぶやきました。王女も、ハンサムで陽気なエンガン王子に心惹かれたようでした。ふたりはそんな感情をつつましやかに押し隠しました。王子はミナン王が手配したもてなしを心行くまで楽しみます。一方、王子の陽気な人柄に魅せられた王宮のひとびとは、王子にいつまでも逗留するように勧めたので、王子はついつい長いときを過ごしてしまいました。意中の人を見出した王子にとって、それは願ったり叶ったりだったにちがいありません。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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