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「エンガン」
西 祥郎

第八回

エンガンは、旅から戻るとロンカンの部屋に駆けつけました。しかしエンガンが部屋の中で見たのは、心が枯れ果て、身体のやつれ果てたロンカンの姿でした。エンガンは自分の過ちを強く恥じ、すぐにロンカンを馬に乗せて散歩に誘いました。ほんのわずかな供を連れ、一頭の馬に相乗りした仲の良い領主夫妻があちらこちらの集落を通り過ぎると、領民たちはその姿に親しみを寄せました。「ごらん、領民はわたしたちに大きな畏敬の念を持っている。」しかしロンカンはもはや、その地の民に何の関心も持っておらず、光を失った目はただ虚空を映すばかりです。ロンカン王女が花嫁としてやってきたときの明るく溌剌とした姿からいま目にしている空虚なお后様の姿への激しい変わりようは領民たちにわが目を疑わせ、そしてひとびとに深い同情を湧きあがらせました。もしエンガンが後ろを振り返ったなら、悲しそうに頭を振る領民たちの姿を目にすることができたでしょう。

エンガンの館の中で、ロンカンは生気を失った人形でしかありません。しかしエンガンにとってロンカンは大切な人なのです。ロンカンを失うことに耐えられるはずがありません。自分がいないときにロンカンを守るにはどうすればよいだろうか?エンガンはあることを思いつきました。
館の奥庭に年経た一本の巨木がありました。エンガンは職人に命じてその木をくりぬかせ、人ひとりが十分生活できる部屋をその幹に作らせたのです。高価なベッドを置き、タペストリーをかけ、カーペットを敷き、美しく内装を整えたあと、切り取った木から扉を作って、外からまったく判らないようにしました。内部の光を洩らすわずかな隙間さえありません。それは、自分が旅に出て館にいないとき、ロンカンに去られるのをもっとも強力に守ってくれる要塞だったのです。[ 続く ]


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この作品は西さんの提供です


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