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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ第14回」

バドゥイという言葉が副群長ラデン・ムリアに意外な印象をもたらした。はたしてあのバドゥイの民が不穏な動きを起こすのだろうか?

「あのひとがバドゥイであるのは間違いありません。ただあのひとは賢く、行儀正しく、聡明で学問があります。同類としか交わろうとせず排他的で、田舎者で無作法で後進的な生活や奇妙な習慣を行っているクンデン山系に住むバドゥイたちとはまったく違っております。」
「その者がどこから来たのか誰にもわからない、というのは本当なのか?」
「だれひとり、それを言える者がおりません。本人に居所を尋ねても、ただ笑って『ここから遠い、遠い、ずっと遠いところだ。』と言うだけで名前を言おうとしません。村人の中にあの爺をマリンピン近くの南海岸で見たことがあると言う者がおり、バドゥイが住むマリンピン東の山中が居所ではないかと推測されます。」
「もし居所がそれほど遠い場所であるなら、その者はいったい何用あってこんなところまでやってくるのだろう。無料で病人を治療しに来るだけが目的ではあるまい。」
「確かにそれが誰にとっても謎であります。毎年12月になるとやってきてチワリランの山頂にひと月逗留し、その後人知れず去って行く。どこから来てどこへ行くのかだれも知らない。そして隠者のように小さな仮小屋に住んで人寂しい山頂でいったい何をしているのかもよくわからない。」
「その者はこれまで仲間と共に来たことはないのか?」
「以前はもう故人となったアシェカ爺といつもふたり。その後はいつも男の手伝い人をひとり連れて来ておりましたが、今回はじめて妻と娘を伴ってやって来ております。」
「ということは妻子があるのだな?」
「これがまた妙な話で、二十歳くらいのその娘が素晴らしい美女。とても田舎に埋もれて暮らしてきた娘とは思えない美形です。もちろん立居振舞や口の聞きようは田舎者そのものですが。」
「話を聞けば聞くほど興味をかきたてられる。その行者が妻子を連れてきたのは今回がはじめてだというのか?」
「さようで。あのひとが言うには、昨年は共産主義者の叛乱があったため、どの道を通っても兵隊や警官に止められて訊問されたので結局チワリラン山を訪れるのを取りやめることになったが、妻子を連れていれば悪事を企てているような疑いを持たれないだろうと思って今年はふたりを連れてきたのだそうです。」
「毎年その山に何をしにくるのか尋ねてみたのかね?」
「はい。わしだけじゃなく大勢が同じ質問をしており、それには『宗教の勤めを行っている』という返事をしております。」
「どんな勤めなのだろうか。病人を救うということか?」
「昔、父親と一緒に来ていたころは、病人の治療はしておりません。治療を始めたのはここ数年で、実によく効くということで今では多くの病人が門前市をなしております。」
[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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