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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ第17回」

「わたしをあの行者に会わせてもらえないかね。」ラデン・ムリアがミクンに取次ぎを頼むと、ミクンは答えて言った。
「それはわたくしめにもお約束のしようがございません。副郡長様がご身分を明かされて職務として面会をお求めになれば拒みようがないのは明らかですが・・・・」
「ならばわたしの身分を言うがよい。」

ミクンはひとりで山頂に向かい、程なくしてから吉報を持ってもどってきた。例によって山頂に行者の姿はなく、行者の妻に話したところ一時間後にお越しくださいと言われたと言う。ラデン・ムリアが時間の経つのを待っていると山頂から行者の手伝い人が下りて来て、「用意ができましたのでお越しください」と告げてから先に立って歩き出した。クスディと名乗ったこの手伝い人は年齢50歳くらい。無口で思慮深そうな人相をしている。ラデン・ムリアはすぐにそのあとに続き、ハリがその後ろについた。
     
登り道は思いもよらず険しかった。細い踏み分け道の急な登攀路は石や岩がごろごろしており、藪やとげのある草が歩きにくさを倍加させている。高く上がった太陽が歩く三人をカッと照りつけ、ラデン・ムリアは汗をかいた。しばらく歩いては休むという歩調が繰り返され、その間に海から吹きつける強い風は爽涼をかれに味わわせてくれた。同時に、眼下に開けたスンダ海峡の壮大な眺望もかれを楽しませた。青い海の中に島が群れている。その中の一番大きな島が1883年に海抜816メートルの山を吹き飛ばして消滅させ、スンダ海峡一円に大災厄をもたらしたラカタ島だ。山のあとはいま海面下に没し、海中のカルデラとなっている。その北側には小ラカタ島別名パンジャン島が寝そべっており、オランダ人はその島をラングエイランドと呼んでいる。西側には少し離れてスルトゥン島があり、その島はオランダ人にフェルラーテンエイランドと呼ばれている。更に北側にはスベシ島とスブク島がスマトラの海岸近くまで迫り、スマトラの海岸線もくっきりと目に映る。ランプン湾に作られたカリアンダ、オーストハーフェン、トゥルッブトンなどの港周辺にはたくさんの蒸気船が停泊している。
     
一方、南西の方角に目を向ければ、タンジュンルスンそしてラブアンの港が手を伸ばせば届きそうな位置にある。1883年にチャリギンが津波で破壊されたあと、ラブアンがそれに取って代わるこの地域最大の商港に成長して繁栄を謳歌しているのだ。南に目を移せばバンテン最高峰のカラン山がそびえ、高低乱れたいくつもの峰を遠く近く従えている壮大な姿に圧倒される。東の海岸線もアニエルの灯台やチコネン岬、チナンカの村々が並び、展望する者に美しい光景を提供している。山頂に着いたラデン・ムリアは手ごろな大岩に腰をおろすと、えもいわれぬそれら天然の美に埋没した。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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