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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ第18回」

一心に下界を眺めている夢見心地のラデン・ムリアを穏やかで威厳のある声が現実に引き戻した。「ようこそお越しなされた」と呼びかける声に振り向いたラデン・ムリアの目は、ひとりの壮年の男をとらえていた。細身で背の高い男の姿がそこにある。顔つきは厳格で威厳があり、額は広く、目が輝いている。知的で教養のある貴族階層の人間が持っている雰囲気をその男は強く漂わせていた。ラデン・ムリアはその男に近寄り、親しみをこめて握手した。
「わたしが対面しているのは行者ヌサ・ブラマ殿でしょうか?」
「その通りです、副郡長様」
     
こうして始まった会見は、あまり訊問色の感じられないものだった。ラデン・ムリアが抱いていた疑問のいくつかはヌサ・ブラマから直接話を聞くことで氷解したし、その問答の中でヌサ・ブラマが語った深い思想のいくつかにラデン・ムリアはむしろ感銘を受けていた。ヌサ・ブラマは風が強いことを理由にラデン・ムリアを小屋の中に誘った。山頂には高さ15メートルほどの大岩が露出して屹立しており、その壁にへばりつくようにして小屋が作られている。ラデン・ムリアは誘われて小屋の中に入った。小屋は竹編の壁でいくつかの部屋に仕切られており、奥がどうなっているのかは見通すことができない。ラデン・ムリアは中に入った瞬間、香の匂いを嗅いだ。入ったところは十分な広さがあり、縁台が置かれてござが敷かれている。水差しや湯呑、シリ入れ、バナナやドリアンなどが縁台の一隅に整頓されて置かれている。室内は質素で家具もほとんどないが、掃除が行き届いていて清潔だ。
     
外から見たときあまり奥行きが感じられなかったその小屋の中に入ると、奇妙なことに奥が深いように思える。ラデン・ムリアはその奥行きが6〜7メートルはあるだろうと見た。貧しいと言えるほど簡素な小屋だが、かれはなんとなく居心地のよさを感じていた。それは小屋の持ち主が持っている温かみのゆえだったのだろうか?小屋の奥から女の話し声が低く聞こえた。副郡長と行者の対話は続く。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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