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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ第2回」

その水が引いてから海水はもう一度グヌントゥラン丘を襲ったが、その後はだれひとりとして丘を下りなかったために犠牲者を増やすことは免れた。結局、グヌントゥラン丘に避難したムラッブラントゥン村民は三十数人がその日、海水に呑まれて姿を消した。クラカタウの噴火がもたらした死は、津波によるものだけではない。山が砕け散るほどの大爆発はすさまじい熱波を生んだ。熱は円周状に拡がって陸地に達し、火山から噴出された高熱の火山性物質もカリアンダ一帯を襲って多くの人命を奪った。

ムラッブラントゥン村は跡形もなく地上から消え去り、好運にもクラカタウの猛威の餌食になることを免れた村民たちも裸一貫で大自然の中に投げ出された。村も水田も津波に一掃され、その上を火山性物質が分厚く覆っていた。村民は全員が山に入り、ジャングルの中で三年間採集生活をして露命をつないだ。植民地政庁からの援助はなにひとつなかったと語り継がれている。

ジャングルの中でひとびとは猿と鳥を見倣ったという。猿や鳥が食べるものは人間も食べることができるのだ。津波はあの一日で終わったというのに川の水はいつまでも塩辛かったと言い伝えられている。三年が過ぎ去り、ムラッブラントゥン村民は村が元あった場所に戻ってふたたび村を興した。村の地面を深く掘り起こすと、津波が海底からもたらしたさまざまなものがいまだに出現する。当時の海底の状況を調査したい研究者にとってはたいへんありがたい資源だが、それを遺跡として保護しようとする動きはない。[ 続く ]


この作品は西さんの提供です


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