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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(21)」

ヌサ・ブラマは一度小屋の奥へ入ってからすぐに戻ってくるとラデン・ムリアを食事に誘った。食べ物は赤米と野菜とサンバルしかないが、と言うヌサ・ブラマにラデン・ムリアは「心配ご無用」と微笑んで答えた。
     
ヌサ・ブラマが奥に声をかけると、湯気の立っている竹編みの飯櫃を捧げて婦人がひとり中から現われた。優しい面影に聡明そうな表情をたたえたその婦人にラデン・ムリアはどこかで出会ったことがあるような気がした。しかしいったいどこで?バドゥイの衆の、しかも女性とこれまで知り合いになったことはない。そんな思いを押し隠してラデン・ムリアはそのヌサ・ブラマの妻に挨拶した。ヤティと名乗った上流スンダ語を話すヌサ・ブラマの妻は明るく潤んだ声をしている。続いてもうひとり若い娘がバナナの葉に乗せた野菜とサンバルを持って中から出てきた。それを縁台に置いてからバナナやドリアンを片付けはじめる。ラデン・ムリアの目がじっとその娘に注がれ、視線を感じた娘はどぎまぎして仕事が手につかない。

「レッナ、早くしなさい。」ヤティの声にラデン・ムリアが反応した。
「このひとは奥さんのお子さんで・・・?」
「ええ、レッナサリと申すひとり娘でございます。」

レッナサリは縁台の上を片付けると、伏目勝ちにラデン・ムリアに会釈してまた小屋の奥に入って行った。ヌサ・ブラマの妻も挨拶して小屋の奥に姿を隠す。ラデン・ムリアはレッナサリの気品のある美しさに魅了されていた。恋に落ちたというものかもしれない。質素で貧しい姿をしていても、内面と外面の美しさが合わさった輝きがレッナサリの全身からこぼれ出ていたのをラデン・ムリアは見逃さなかった。都会から隔絶された田舎で毎日を送っている田舎者と思ったその母と娘にそれだけの気品があることを目のあたりにして、ラデン・ムリアはわが目を疑った。ましてやレッナサリの透明な美しさはどこに出してもひけをとらない。ランカスビトゥンでもセランでも、学生時代を過ごしたバンドンでも、こんな優美な娘を目にしたことはない。ラデン・ムリアはそう確信した。

[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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