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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(24)」

ラデン・ムリアは次の日曜日にまたチワリラン山を訪れる心積もりにしていたが、どうしたことか気持ちが少しも落ち着かない。月曜日火曜日と職務に没頭しようと努めたものの、火曜日の夜にはもはや矢のようになった心を抑えることができず、水曜日の早朝、愛用のオートバイにまたがると単身でスカラメに向かった。スカラメ町でオートバイを預け、徒歩でチタンジュル川沿いをさかのぼる。仮小屋の並ぶエリアに到達し、ミクンのワルンで茶を所望した。ワルンではパレンバン者のグループが話しに興じている。アブドゥル・シンティルはもう視力が回復したらしく、白布で目を覆うことをせず無遠慮な視線をあちこちに向けている。かれらは周囲にいるスンダ人が上流ムラユ語をあまり理解できないことを知っていてムラユ語で会話していたが、ラデン・ムリアにはかれらの話が筒抜けだった。最初ラデン・ムリアはかれらの話の内容に興味を抱いていなかったが、レッナサリという言葉が聞こえたときかれの耳はパレンバン者たちの話に焦点を合わせていた。
     
アブドゥル・シンティルがレッナサリに首ったけになっている。ヌサ・ブラマに治してもらった目がレッナサリの姿を映したとき、かれはレッナサリを自分のものにできないなら目がつぶれたままでいた方が幸せだ、と自分に言い聞かせたらしい。その想いを仲間たちに打ち明け、どうすればいいのかと相談しているのだ。来年また来たときになどと悠長なことを言っているとレッナサリはほかの男のものになってしまうから、今日明日にも行者に娘をくれと申し込め、と煽る者がいる。娘を海の向こうにまで手放すのは拒むにちがいない、と水をかける者もいる。いや、結納をこれだけ積めば行者はきっと承諾する、と言う者に向かってアブドゥル・シンティルは、ゴム園を売り払ってでもその何倍もの結納を渡してかまわない、と語る。「そんなことをするよりも、タクシーを雇っておいてレッナサリをそれに乗せ、ここから消えてしまえばそれで終わりよ」という言葉を取り巻きのひとりが口にしたのを耳にしてラデン・ムリアはついにベンチから立ち上がった
[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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