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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(26)」

パレンバン者たちが立ち去ったことを確認したラデン・ムリアはそこを後にしてただひとり、山頂に向かって登攀の歩を運んだ。しばらく進んだところで、ラデン・ムリアは前方をひとりで歩いているレッナサリの姿を認めた。洗濯したばかりの衣服を載せた籠を抱え、おまけに水を入れた太い竹筒を持っている。足取りは見るからに疲れた雰囲気だ。ラデン・ムリアは歩を急がせてレッナサリに追いつき、声をかけた。思いがけないひとの出現にレッナサリは目を丸くし、はにかみながらも微笑みを満面に浮かべた。遠慮するレッナサリから無理やり竹筒を受け取ると、ラデン・ムリアはレッナサリと並んで歩き出す。

「レッナ、あんたはパレンバン者たちから贈り物を受け取ったのかね?」ラデン・ムリアはついさっき下のワルンで耳にした話を確かめようとした。レッナサリは信じられないという顔で驚ろき、それからすぐに飾り気のない態度で説明した。
「ええ、でもお父様にこのことは絶対に言わないでくださいな。あのひとはわたしが洗濯しているとわたしに贈り物をしたいと言い、わたしが断っても近くの岩の上にそれを置いて行ってしまったの。しかたないからそれを上の小屋に持ち帰って仕舞ってありますけど、無理にそんなことをされた物でもお父様に知られたら叱られてしまいますから。」
「あんたはどうして滝までひとりで行くのかね。だれかと一緒の方がよくはないだろうか?」
「お母様は足が強くないのでここの上り下りはたいへんなの。わたしはこうやって仕事するのに慣れてますから。それに、上には使える水がないので下から汲んでいかないと仕方ないんです。洞窟の中にも泉があるけど、硫黄くさくて使えないので・・・・。」
「洞窟って、どこにある洞窟かね?」
「山頂の小屋の一部は五尋ほどの奥行きで洞窟の中に入ってるんですよ。雨が降ると小屋は雨漏りするのでみんな洞窟に避難するんです。でもその洞窟は奥のほうにまだ続いていて、お父様はその奥まで入って金曜日以外毎日祈祷しています。そこへ入る入り口は狭くて、岩の隙間を這うようにして行きます。」

そんな話をしているうちにふたりは山頂に達した。幸福な時間はどうしてこんなに足早に過ぎていくのだろう?

[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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