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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(27)」
レッナサリはラデン・ムリアに笑顔を向けて会釈すると足早に小屋の中に入っていった。ヌサ・ブラマの妻が小屋から出てきてラデン・ムリアを迎え、小屋の中に招じ入れる。しばらくしてヌサ・ブラマが現れた。
「これは副郡長様。きょうはまた何か御用でも・・・・。」
ラデン・ムリアは自分の祖母と行者の妻の面影の相似の謎を解きたくてそこを再訪したのだが、レッナサリとふたりだけの時間が持てたことで胸がいっぱいになっていた。どうしたはずみか「自分はあなたを師と仰ぎたく自分の職務の指針を教授してもらいたくてやってきた」という言葉が咄嗟にラデン・ムリアの口をついた。レッナサリとふたりだけで話す時間が持てたことでかれはそこへやってきた目的がもう果たされたような気持ちになっており、レッナサリとその母のことをあれこれ問いただすのが億劫になっていたのだ。かといって、かれが口にした言葉がまんざら嘘だったわけでもない。
     
ヌサ・ブラマの奥深い思想が紡ぎだす言葉にラデン・ムリアは自分の前に新しい世界が開けた思いを抱き、そうしてふたたび質素な昼食をふるまわれたあと、副郡長役所で待っている仕事を思い出しながら、しかしもっとヌサ・ブラマの思想に触れたいと後ろ髪をひかれる思いでチワリランの山頂を辞した。
     
ラデン・ムリアは今朝ほど麓のワルンで起こったパレンバン者たちとのいざこざを行者に告げそこなった。悪人たちに狙われているという話を行者の一家に告げてみんなの心を慄かせるのをかれは哀れと思ったのだ。禍の元はすでにここから去ったのだし、いまさらネガティブな話を師の耳に入れてその気持ちを乱すのも気の毒だ。ヌサ・ブラマ一家の安全は自分が陰ながら見守り、ふだんは村警官に特別に注意するよう命じておけばよいだろう。ラデン・ムリアはそう考えた。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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