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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(28)」

チワリラン山周辺の村々に、効験あらたかな治療を施してくれる行者ヌサ・ブラマが12月30日に山を去るという知らせが口伝で広まった。つまり行者の治療を受ける機会は12月23日あと一回だけしかないことをそれは意味していた。その23日がやって来て、その日は早朝から大勢のひとが山麓を埋めつくし、行者の治療と薬を得ようとして長蛇の列を作った。ほとんど休む間もない多忙な一日が終わり、24日の土曜日に変わるとチタンジュル川の水源に近い仮小屋やワルンからはひとの姿がほとんど消え、仮小屋の一部もたたまれていっそう侘しさを増す情景になった。
     
ミクンをはじめ行者の徳を慕う少数のひとびとだけが、行者がそこを去るのを見送ろうとしてこれまでのようにそこでの暮らしを続けている。ひっそりとなった24日も暮れて夜が来た。その日は夕方から風が強まり、黒雲が北西の方角から流れてきて夜空を覆い、星も月も姿を見せない。

     
村人たちが寝静まったころ、南から自動車が2台スカラメ町に入ってきた。自動車は丘に向かい、チタンジュル川畔に停まる。自動車から出てきた人影は八つ。制服に身を固め、短い剣を腰に下げてカービン銃を背に担った野戦警官たちだ。長い外套を着た男がひとり、警官隊の先頭に立って道案内をする。警官隊は懐中電灯で足元を照らしながらチワリラン山を目指して進む。警官隊の後ろにやはり外套を着た男が5人従っている。一行はまだ少し残っている仮小屋の脇を通って山頂を目指す登攀路に入った。警官隊の後ろに従っていた男たちのうちふたりがそこに残った。
    
一行は話し声をたてず身振りで互いに合図しあう。静かに山頂に達すると竹編の小屋に近付いてそこを包囲した。警官隊指揮官と道案内をした男が小屋に近寄り、表戸を叩く。中からクスディの声がした。
「誰だ?」
「警察だ。ここを開けろ。」野戦警官隊の指揮官が言う。その指揮官はオランダ人だ。
「どうしてこんな夜中に。行者はもうお休みになられた。」
「つべこべ言わずに早くここを開けろ。従わないならここを押し破る。」

縁台からひとが下りる音が聞こえ、足音が奥へ向かった。奥で低い話し声が起こり、数人の足音が表に向かって近付いてきた。中で明かりがともされ、竹網壁の隙間から洩れる光が強まった。クスディが扉を開く。ヌサ・ブラマが明かりを手にして中央に立っていた。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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