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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(32)」

夜が更ける中で、ラデン・ムリアは執務室のソファに座って新聞を読んでいた。自動車のエンジン音が近付いてきて、副郡長役所の表で止まる。こんな夜更けにいったい何事が?ラデン・ムリアが表戸を開くと、野戦警官たちに連行されたヌサ・ブラマとクスディがいた。

「行者殿、いったいどうなされた?」

その言葉も終わらないうちにオランダ人指揮官の姿に気付いたラデン・ムリアは、指揮官にオランダ語で挨拶をしてからその一行を役所内に招じ入れた。指揮官はラデン・ムリアにオランダ語でヌサ・ブラマを逮捕した経緯を話しはじめた。
     
この行者は本当は叛乱を企てている共産主義者で、民衆を集めて不死身になるお守りを配り武装蜂起をさせようと煽動している、と逮捕容疑を語る。ラデン・ムリアもオランダ語で、自分もその行者については既に調査済みであり危険な思想を持っていないことは糾明してある、と指揮官に説明した。そんな容疑がどこから出たのかを質問するラデン・ムリアに指揮官は、ラブアン郡長が使っている諜報役が連れてきた原住民からの情報だと明かす。その諜報役が誰かを知ったラデン・ムリアは、それは民衆からげじげじのように嫌われている悪徳諜報役で、もし郡長が取調べを許せば数ある悪事のために監獄行きは免れない男だと指揮官に教える。そしてその原住民はいったい誰かとまた尋ねるが、指揮官は名前を覚えていないと言い、スンダ人ではなくスマトラの者だったと答えたのでラデン・ムリアにはこの事件の裏側がおぼろげながら推測できた。
    
パレンバン者を逮捕しなければならない。すぐに自動車でチワリラン山へ引き返そう。しかしラデン・ムリアの提案に指揮官は同意しなかった。自分は明朝、南部の見回りの命令を受けているので今からラブアンに戻らなければならない。今回の事件はラデン・ムリアに処理を委ねるので、事件処理の手伝いのために野戦警官を三名置いていく。指揮官は手早く部下に指示を与えると、他の部下を率いてラブアンに帰って行った。二台の自動車は闇の中に消え、エンジン音もかすんで聞こえなくなった。オランダ語を解さないヌサ・ブラマにラデン・ムリアは事の成り行きをかいつまんで話し、すぐにチワリラン山頂の小屋に急行して悪人どもを捕まえる考えを述べた。副郡長は三名の野戦警官に、今すぐチワリラン山頂にヌサ・ブラマとクスディを連れて戻り、山頂の小屋で夜明けを待っている者たち全員を捕らえてここへ連行せよと命じ、そして副郡長役所の用人ふたりにはスカラメ町長を訪れて野戦警官に手を貸す人数を出してもらい総出で山頂に向かうようにと指示を与えた。

全員が副郡長役所から出払うと、ラデン・ムリアは報告が来るまで仮眠を取ろうと考えたが、レッナサリの運命が気にかかって一睡もできない。壁の時計は午前二時を打つ。どうせ眠れないなら自分も今から山頂へと思ったが、そのとき激しい雨まじりの強風が外を吹き荒れていることにかれは気が付いた。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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