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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(33)」

そのころ、ヌサ・ブラマの一行は激しい雨の中をびしょ濡れでチワリラン山頂の小屋までたどり着いていた。ミクンだけが小屋の中にいた。
「ここにいた者たちはどこへ行ったのか?」
行者の問いにミクンは答えて言った。「みんなは海岸に降りて行って、帆船に乗って沖へ出ました。」
「みんな?わしの妻と娘も一緒だと言うのか。」
「さようで。夜の10時ごろ奥様に声をかけられ、この小屋の留守を頼むとおっしゃられて。奥様とレッナ様もパレンバン者に連れられて海岸まで下りなさった。わしは隠れて後からついて行きました。みんなは海岸から帆船に乗って、どうやらスマトラに渡るように見受けました。」
「女たちは嚇かされたり無理強いされてそうしていたのか?それとも自分の意思で?」
「遠目からは嚇かされている雰囲気は見受けられませんでしたが、ただ何をしゃべっていたのかは聞こえなかったので、自分の意思でそうされたかどうかの断言はむつかしい・・・。」
「あんたはパレンバン者たちを知っていなさるか?」
「あのパレンバン者たちは行者様が目をお治しになったアブドゥル・シンティルの仲間です。」
「ああ、あの男はわしに大金やさまざまに高価な品物をくれたが、わしはどれも受け取らなかったのであの男は気を悪くしたようだ。挨拶もしないで去って行きおった。」
「いや、あの男が去って行ったのは副郡長様に追い払われたからです。行者様はご存知なかったので?」
「それはいったいどういうことなのか?」
「アブドゥル・シンティルはレッナ様に惚れ上げていて、レッナ様が滝へ洗濯に来るとあのパレンバン者がつきまとい、高価な贈り物を渡して妻になるように仕向けていたのです。副郡長様が来ているとき、パレンバン者たちがレッナ様をかどわかす相談をしているのを聞いてお怒りになり、それでアブドゥル・シンティルたちを追い払われたのです。」
「そんなことをわしは何ひとつ耳にしておらぬ。そんな危険が身近にあったのなら、どうしてわしの耳に入れてくれなかったのか。ミクン、もうひとつ教えてくれ。レッナはその贈り物を受け取ったのか?」
「アブドゥル・シンティルは仲間たちに、レッナ様は贈り物を受け取られ自分のことを悪く思っていない、と吹聴しておりました。」
常に穏やかなヌサ・ブラマが顔を紅潮させ、目は怒りに燃えてギラつき、険しい表情で手足をふるわせている姿にミクンは怖れをなした。

証拠を見つけてやる、と呟いた行者はクスディについてくるよう命じて奥の妻と娘の部屋に入って行った。そうして娘の衣服を入れてある行李を開くと、そこにしまってあった衣服を取り出した。行李の一番底に、黄金製腕時計、イギリス金貨、宝石のついた指輪や留め金、高価なサロンなどが置かれているのが見つかった。それらを手に取ったヌサ・ブラマはまるで汚物か毒蛇でもあるかのように周囲に投げ捨て、大地に身を投げ出してうめいた。「おお、バタラウィスヌ!」[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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