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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(34)」

5分ほどしてからヌサ・ブラマは起き上がり、クスディに支えられて消耗しつくした風情の身体を小屋の表に現した。スカラメ町長をはじめそこに集まっていた野戦警官や副郡長の用人たちにミクンはヌサ・ブラマの妻子が連れ去られたことを説明していた。町長は、みんなここに集まっていても仕方ないので野戦警官と用人はすぐに副郡長に事態を報告するためにシンダンラウトに戻るほうが良いと言い、パレンバン者たちを追いかけるために警察の蒸気船を使い、またランプンの警察に電報を打ってかれらが上陸しそうな場所を見張るよう手配してはどうかと提案した。ヌサ・ブラマは、警察の仕事は何をどうしようが警察にお任せすると言い、ほかのひとびとが解散するのを見送った。山頂には行者とクスディだけが残り、ミクンも下山した。

「もう終わった。すべてが終わった。レッナサリ、パジャジャラン王家の女王の座を継ぐべきおまえが物欲に道を見失い、下賎の悪党に誘惑されてそんな男の子孫を作るのか。これまで営々と保ってきたわが血統の高貴さはこれで地上から絶滅した。この罪はわしとおまえが担わなければならぬ。この世はこれで終わるのだ。わしが、父が祖父が、そして遠い歴代の先祖たちがバンテンとランプンの平穏と安寧を維持するために務めてきたこの行を続ける者はもういない。遅かれ早かれこの地は破滅する。ならばわしの目がまだ黒いときに破滅して何が悪かろう。おお、バタラウィスヌ!」ヌサ・ブラマはクスディのいることも忘れたかのようにそう独白し、息を切らせて縁台に倒れ込んだ。そして10分ほどして起き上がるとクスディに祈祷の用意を命じた。そのときミクンが小屋に入ってきて行者に拝礼した。

「行者様、昨日の帆船がパサウラン村近くのタンジュンバンクアンにいます。昨夜の強風で吹き戻されたにちがいありません。船はまだ近くにいるので、すぐに捕まります。副郡長様が警察の蒸気船で自らあの船を追うためラブアンに向かっておられます。行者様の妻子は無事に戻ってくるのでご安心を、とスカラメ町長が伝言を送るためにひとを遣わしてきました。」ミクンの言葉にヌサ・ブラマはすぐ立ち上がり、小屋の外へ出てスンダ海峡を見下ろせる大岩に向かった。ミクンがあの船に間違いない、とヌサ・ブラマに教える。緑色の帆を張り、マストに青色の燈火を掲げた船は一夜明けて穏やかになった海面をスマトラに向かって進んでいる。しかもほかの船が通らないクラカタウ群島に向かって進んでいるのだ。ヌサ・ブラマは突然奇妙なことを言い出した。

「クラカタウはもうすぐ爆発する。副郡長様にクラカタウには近付かないようお伝えしてくれ。」ミクンもスカラメ町長が遣わした伝令も、行者の言葉を耳にして微笑した。
「何を笑っている?わしの気がふれたとでも思ったか。さあ急いでお伝えするのだ。」
半信半疑のふたりは山頂を後にした。ヌサ・ブラマは小屋の中に入り、クスディに命じた。「おまえは小屋の表にいて、誰が来てもわしは出かけて明朝まで戻らないと言うのだ。」
そうしてヌサ・ブラマは衣服を着替え、洞窟の奥にある小さい穴から這ってその中へと入って行った。
[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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