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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(41)」

「馬車でどこへ行こうとしていたのですか?」
「火山が爆発するから避難しようとしていたように思います。」
「だれが避難するように言ったのですか?」
「わたしの両親です。ええ、少しずつ思い出してきましたよ。」
「家はどこにありました?」
「覚えてないわ。」
「山の上でしたか、それとも森の中?」
「いえいえ、兄さんと貝殻を拾って遊んだからきっと海の近くです。」
「兄さんの名前は?」
「思い出せない。」
「親の仕事は何でしたか?漁師、農夫、車引き・・・」
「いいえ、そんなんじゃないわ。そうでないのは確かです。」
「大きな家でしたか?」
「そう、大きな家でいつもひとが大勢きていて、みんなが両親に拝礼していました。」
「あなたが避難したとき、両親も一緒でしたか?」
「いいえ、両親は家にいました。わたしは兄さんと使用人たちだけで馬車に乗って避難したんです。」
「兄さんの名前はハサンでしたか?」
「そう、思い出したわ。ハサンよ。」
それまでふたりのやり取りを聞いていた県令は椅子から立ち上がるとヌサ・ブラマの妻に歩み寄った。
「何だって?あんたにはハサンという名の兄がいたのか?」ラデン・ムリアはそれを遮った。「父上、もう少し待ってください。」
そしてヤティに向かってまた質問を続けた。
「馬車で避難するとき、あなたは両親から何かを与えられませんでしたか?」
「覚えてないわ。」
「たとえば腕輪とかペンダント。」
「そう、あったわ。母が形見に腕輪を、父からはペンダントをもらいました。」
ラデン・ムリアがルッミニに自分の腕輪を見せるように言う。
ヌサ・ブラマの妻は「そう、これですわ。」と肯定し、そしてレッナサリに注意した。
「レッナ、これはとても大切なものだから、ほかのひとに貸してはだめよ。」
ラデン・ムリアが今度はレッナサリに自分の腕輪を示すように言った。ヌサ・ブラマの妻は驚きに目を見張った。どうして同じものがここに・・・?
「ルッミニの腕輪は父親のハサンからもらったものです。」
「ハサンですって?ハサンはどこにいるの?」
目を潤ませた県令はもはや座っていることに耐えられなかった。立ち上がってヌサ・ブラマの妻に近寄ると、いきなり抱きすくめた。
「スリヤティ、スリヤティ。二度と会えないと思っていたおまえがこうしてわたしの前に・・・」

[ 続く ]


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この作品は西さんの提供です


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