ジェイピープルメインページへ インターネットコンサルティング

「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ(43)」

翌8月28日も細かい灰が降り続けていたが、うすぼんやりした明るさが朝であることを告げており、一日中真夜中のようだった昨日はもう過去のものとなっていた。行者とウジャン少年は2時間かけて難路を登り、チワリラン山頂に着いた。屹立する大岩に寄り添って竹網壁の小屋がある。しかし雑木や藪が周辺を埋め、そして大きな石が周りに転がっている。それを除けながら小屋に入ったふたりが奥の洞窟まで達すると、硫黄臭い水が湧き出ている泉がある。その脇の岩の隙間をふたりは掘りはじめた。大小の石を取り除いていくとそこにひとひとりが潜りこめる小さい穴が出現した。行者はろうそくに火を灯すとその穴を這って進んだ。ウジャンが後ろに従う。穴は奥に向かうにつれて大きくなり、10メートルほど行くと空間が広がって明るさが増してきた。そこでは大人が立って進むことができるが左は岩壁がせまり、右は深い絶壁で、足を踏み外さないよう注意して歩かなければならない。絶壁の下は真っ暗で、はるか下のほうで水の流れる音がしている。頭の上のほうは折り重なった大岩の隙間から光が指しこんでいて、燈火の必要はない。そこから20メートルほど奥に小部屋のようになった空間があり、小部屋の脇には大きな穴が口を開いていて真っ暗な穴の底はドロドロと何かが沸騰しているようなおそろしげな響きを立て、硫黄臭い煙が立ち昇っている。その小部屋の奥にも大小の岩が折り重なって転がっていた。三週間ほど前に起こった地震の仕業にちがいない。行者はそのありさまを前にして悲痛な声をあげた。「しまった!」

「おお、サンヒヤン・バタラウィスヌ!愚かな人間の過ちをお赦しくだされ。どうかお慈悲を。」6メートル四方ほどのその小部屋の奥に駆け寄った行者はすぐに転がっている大小の岩をかきわけて何かを探し始めた。そして少年に手伝われて岩の下から高さ1メートルほどの神像を拾い出した。手が四本あるその石像は頭がなくなっており、また手が二本折れている。ふたりは再び転がっている岩の間を探しはじめた。頭が見つかり、腕も出てきた。少年が行者に言った。
「父上、頭も腕も壊れてはおりません。神像を元通りに治すことができます。」
「いや、もう遅い。おまえ自身が目にしたようにクラカタウが爆発した。大勢の人間の生命が失われたにちがいない。」
「神像が壊れたこととクラカタウの爆発がどう関係しているのですか?」
「わしにもそれはわからん。しかし神像の背には『この像が壊れる日、この国も死滅する』と書かれている。わしはわしの父から命じられ、父はその父からと先祖代々言い継がれてきた。毎年この洞窟を訪れて手入れをし、神像を守るようにと。そうすることでバンテンの民は災禍から免れることができる。この像が壊れたときこの国は大きな災厄に襲われる。クラカタウが爆発し、パジャジャラン王家は滅亡する。この像が三週間前に壊れ、そしてクラカタウが大爆発した。関係がないとは思えぬ。」
「ならばぐずぐずしてはいられません。すぐにセメントを使ってこの像を復元しましょう。」
「おお、そうだ。わが子よ、それはよい考えだ。すぐ村に下りてセメントを用意してもらうのだ。」

ふたりは急いでチクパ村まで下り、村人にセメントを5キロほど用意してくれと頼んだ。セメントを買うにはメネスまで行かなければならない。18キロの道のりを村人は急いで往復した。午前11時に村を出た村人が戻ってきたのは夜のとばりが降りた7時過ぎだった。村人は道中耳にしたさまざまな話をも持ち帰った。大津波が海岸の村や町を一掃し、多くの人命が奪われたという話を。

[ 続く ]

全文を読む場合はこちら

この作品は西さんの提供です


※このサイトに掲載されている内容(データ)は ジェイビープルが所有するものであり、無断転載、転用及び無断複製は一切禁止します。
※リンクはフリーです。Copyright(c)2004-2005 JPEOPLE