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「クラカタウ」
西 祥郎

「クラカタウ第7回」

波打ち際に下りると、住民たちは普段通りの暮らしを営んでおり、海の波も空の様子もいつもと同じで異変が起こるような兆しは感じられない。ひとつだけ違っているように思えるのは、はるか遠くに浮かんでいるクラカタウ島の山頂から吐き出されている火と煙が昨日見たものよりも強まっていること。住民たちに尋ねると、その通りだという返事が返って来た。それどころか、地の底を揺さぶる轟音も大きくなり頻度も増している、とかれらは言う。郡長はひとわたり住民の様子を見回ってから役所へ戻った。

戻る道すがら郡長は、ここ数日来妻から聞かされた夢の話を反芻していた。世界は暗闇に包まれ、空から火の雨が降り、海水は陸地に流れ込んですべてが水の底に沈む。それはクラカタウがもたらすのだと妻は言う。

郡長の妻サディジャは一年程前に高熱の病にかかった。何日も高熱にうなされた後で病はやっと快方に向かったが、それ以来妻はまるで別人になったかのように僅かな刺激に過敏な反応を示すようになった。茫然と自分の中に閉じこもる時間が長くなり、常人とは思えない振る舞いを見せることも起こった。郡長は妻の脳が熱に冒されたのだとその現象を理解していたが、その一年間に何度か妻の口から出された予言めいた話が現実に実証されたことから、妻には透視能力が備わったのではないかという気持ちを完全に否定することもできないでいた。ある夜中に妻の悲鳴で目覚めた郡長は、サディジャが夢に見た難破する船の情景を聞かされた後、妻をなだめて再び眠りに落ちた。そして翌朝届いた報告と妻が見た夢との間の符合に驚かされた。ラブアンからアニエルに向かっていた船が突然の時化に襲われて難破し、乗組員の6人が波に呑まれたという知らせは、妻が見た情景にぴたりと一致していた。また別の時は、チレゴンにいる祖母が横たわり白布で包まれている夢を見たという話を妻が郡長にした。そして翌日の午前中に、サディジャの祖母が前夜死去したという訃報が郡役所に届いた。[ 続く ]

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この作品は西さんの提供です


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